私とにゃんぷっぷーはずっと一緒には居られない


「にゃあ」

 

どこかで鳴き声が聴こえる。声のする方を見ると、私の愛猫が居た。

にゃんぷっぷー何してるの?

 

「にゃあ?」

 

また鳴き声がする。あれ?にゃんぷっぷーが2匹いる。

 

「にゃあ!」

「にゃあ〜」

「にゃん!」

「にゃう〜」

 

にゃんぷっぷーがどんどん増えていく。私の目の前には大勢のにゃんぷっぷーが集まっている。

 

「みぃちゃん、ぼくはみんなと行くにゃ」

 

にゃんぷっぷーの声がする。

行くって、どこに?

 

猫達はぞろぞろと私の元から離れて行く。

ねぇ、待ってよ、行かないで、

 

「さようなら、みぃちゃん」

 

待ってってば、どうして、そんな、

お願い、行かないで、にゃんぷっぷー…

 

────────────

 

「みぃ、聞いてる?」

 

はっと我に帰ると、友達が私の顔を覗き込んでいた。

 

「え…ごめん、聞いてなかった」

「なんか今日元気なくない?」

 

私は「ちょっと寝不足かも…」と誤魔化しておいた。友達に変な夢の話をしても面白くは無いだろうから。

 

「それで、何の話だっけ」

「最近流行ってる都市伝説の話。知ってる?"幻の猫の喫茶店"」

「ね、猫?」

 

猫、という単語に思わず反応してしまう。

 

「知ってるの?」

「し、知らない」

「猫好きだから知ってるかと思った」

 

友達は"幻の猫の喫茶店の都市伝説"について、スマホを見ながら話し出す。

その喫茶店の店員は喋る猫で、お腹を空かせたお客さんにとっても美味しい料理を振る舞ってくれるという。

店に行ったことのある人は何人もいるのに、その人達が言う喫茶店の場所はバラバラで、

探しても見つからなかったらしい。

 

「んで、最近喫茶店に行ったって人は『喫茶店は三栖木駅前にあった』って書いてたらしくてさぁ。

そんな近所にもあるんだったら行ってみたいよね〜」

「へ、へぇ…」

 

都市伝説なんて私は信じないタイプだ。ネットの創作話なんていくらでもある。

面白いとは思ってるけど、そこまで興味は無い。

けれど、今の話は、私にとっては気になる事だらけだった。

 

─────────

 

「喋る猫がやってる喫茶店〜!?すごいにゃ〜」

 

目の前の喋る猫が何か言ってる。私は「にゃんも喋る猫じゃん…」と一応ツッコミを入れてみる。

 

「いやいや〜、ぼくはお料理出来ないしお店の経営だなんてとてもじゃないけど無理だにゃ…」

 

にゃんぷっぷーはしょぼんと耳を垂らす。この様子だと嘘を言っている訳では無さそうだ。

まぁそもそも私に嘘をつくような子じゃ無いけど。

 

「…本当に、今の話はにゃんの事じゃないよね?」

「え?ぼくなわけないにゃよ、何言ってるにゃ」

「…じゃあ、もしかしてさぁ…」

 

恐る恐る、本当は聞きたくないことを聞いてみる。

 

「にゃんの家族とか、だったら…どうする…?」

 

猫はキョトンと目を丸くする。

 

「ぼくの、家族…?」

 

─────────

 

にゃんぷっぷーは捨て猫だった。

ダンボールの中で震えながらぷにゃあ、ぷにゃあ、と鳴いていた姿を今でも覚えてる。

私は小学校の帰りにそれを見つけて、ダンボールごと抱えて家に帰った。

汚れた身体をタオルで拭いて、ミルクをあげると勢いよく飲み始めた。

お皿が空になると、猫は「ありがとうにゃあ」と喋った。

これがにゃんぷっぷーが初めて喋った言葉だった。

あの時ほど驚く事はこれからの人生でもう二度と無いと思える。

それから、その子猫は私によって「にゃんぷっぷー」と名付けられ、新しい家族の一員として迎え入れられた。

 

そう、家に来るまで、にゃんは捨て猫だった。1匹だけで生きていた。

一度だけ、誰に捨てられたのか聞いたこともあったけど、にゃんは覚えてないと言い、

更には両親の顔すら覚えていないと言っていた。

 

けど、もしも、どこかににゃんの本当の家族が居たら?

生き別れた両親が居たら?もしかしたら、きょうだいも居るかもしれない。

そうしたら、にゃんは本当の家族の元へ戻ってしまうだろうか。

 

『みぃちゃん、ぼくはみんなと行くにゃ』

 

『さようなら、みぃちゃん』

 

今朝見た夢の光景が、頭を過ぎる。

我慢していたのに、涙が出そうになる。

 

「みぃちゃん」

にゃんが私の膝の上に乗る。ふわふわで、暖かい。

 

「ぼくの家族は、みぃちゃんと、みぃちゃんのお母さんと、みぃちゃんのお父さんだよ」

 

「にゃんぷっぷー…!」

 

私は泣きながらにゃんぷっぷーを抱きしめた。

 

「にゃんぷっぷーはずっとうちに居てくれるよね?ずっとそばに居てくれるよね?」

 

「大丈夫だよ、みぃちゃん。ぼくはずっと一緒に居るよ」

 

泣きじゃくる私に、猫は優しく微笑んだ。

 

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「やっぱり都市伝説なんて信じちゃ駄目だなぁ」

「でもでも、ぼくも頑張ればお料理出来るのかもしれないにゃよ!?」

「キッチン荒らすのが目に見えてるからやめて」

「え〜!?」

 

私と猫が笑い合う。

人間の私と猫のにゃんぷっぷーが永遠に一緒に居ることは出来ない。

だとしても、この幸せな時間が少しでも長く続きますように、と心の中で祈っていた。