僕のクラスにはお嬢様が居る
ポコン、と静かな教室に電子音が鳴った。
「誰だスマホ鳴らした奴ー」
教授が生徒を見回すと、僕の後ろの席の奴が手を挙げた。
「すんませーん、俺の屁の音で〜す」
特に面白くもない冗談に、教室の空気は更に微妙になっていく。
教授は呆れた顔をしながら「んなわけ無いだろ」と一応ツッコミを入れてから授業へと戻った。
授業が終わり、教授が教室を出たのを見計らってから僕はすかさず
スマホの音量をゼロにし、マナーモードをオンにした。
危なかった。いや、やってしまったには変わりない。しかし首の皮一枚繋がった。
どうして大学ではいつも音が出ないようにしているのに、うっかり今日に限って忘れて、
そのうえ嫌にマナーに厳しい教授の授業中に通知まで来るんだ。
僕は画面を操作し、通知の内容を見る。いや、見なくても分かっている。この通知音は…
「おーい、おだっち〜」
僕の視界に、急に人間が現れた。
「アッッッ!?」
「いや声でっか!?ビビるわ」
ビビったのはこっちの方だ。後ろの席の奴が目の前に現れるもんだから。
しかも喋った事なんか一度もない同じ授業を受けてるってだけのチャラ男に名前まで把握されている?
「っち」って何だ?僕に何の用だ??
「もしかしてお前さ、やってんの?」
「なっ、何を」
「にじみす」
頭が真っ白になった。
何でコイツの口からにじみすの名前が?こんな知らない奴に垢バレ?そんなバカな、
僕は一応ネットリテラシーは高い方だと思っていたのに、何が起こってるんだ??
「いやぁ、授業始まる前に後ろの席からお前のスマホ見えちゃってさ。
見たことある画面だな〜と思ったら通知音も聞こえたからやっぱそうじゃん!て思って」
黙っている僕にチャラ男がべらべらと喋る。
やばい。どうしよう。僕は大学では隠れオタクとして生きて行くつもりだったのに。
垢を晒すと脅す気か?なんでどうして僕はいつもなにもうまくいかないんだ
…いや、待てよ、
今コイツ、見たことある画面って言った?
「俺もやってんだ、にじみす」
そう言ったチャラ男は自分のスマホを僕に見せた。
「あ…」
そこには見覚えのあるSNSの画面があった。
「お前の垢、フォローして良い?」
チャラ男が屈託のない笑顔を向ける。
僕は声を大にして言った。
「絶ッッッッ対に嫌だ!!!」
「え!?何でだよ!?」
「プライバシーの侵害だ!!!」
「どこが?」
「とにかく僕は嫌だ〜〜〜!!!」
「何だよフォローさせろよ!!お前のノートにリアクションしてやっから!!」
「やめろやめろやめろ!!!」
こうして僕の平穏な大学生活は終わりを告げ、新たに騒がしい日々が始まったのだが、それはまた別の話だ。