私のクラスにはお嬢様が居る。
金髪に大きなリボンを結び、制服ではなく毎日違うドレスを着て、
ガラスの靴で教室までやって来て、私の前の席に座っている。
この学園の理事長の娘である彼女の我儘は何でも通るのだ。
入学したての頃こそクラスの誰もが彼女にドン引きしていたが、人間以外と慣れるもので、
1ヶ月もすれば普通にクラスの一員としてそこに馴染んでいた。
私も始めはこんな常識知らずな人とは関わらない様にしようと努めていたが、
いつの間にか彼女と食堂の片隅でお昼の弁当を食べる仲にまでなっていた。
今日も彼女が食堂の席に着いたタイミングで、シェフが彼女専用の出来立てホヤホヤ弁当を運んで来た。
おせちの重箱の様なそれの蓋を開けると、色鮮やかな料理が並んでいた。
「いただきますわ」
お嬢様はナイフとフォークを使い、一口づつ丁寧に料理を味わう。
彼女の食べる料理は庶民の私には縁遠いものだったので、それを見ても何という料理名で
何を使った食べ物なのかは毎回分からない。
それでも、彼女が見せる表情から察するに、美味しいものなのだとは思える。
「いただきます」
私も自分の弁当に手を付ける。ご飯とおかずがいくつか入ったごく普通の弁当だ。
普通に美味しいと思えるし、私にはこれくらいでちょうど良い。
「…ていうかさ、何でいつも弁当なの?」
ふと沸いた疑問をお嬢様に聞いてみる。
「何で…とはどういう意味ですの?」
「いや…お嬢なら学校に自分専用のレストラン作ったりしそうじゃん。
なのにわざわざ弁当運んで来てもらってまで食堂で食べるって…なんでかなーって」
彼女はナイフを動かす手を止めて、私の目をまっすぐ見た。
大きくて透き通った翠の瞳がじっと私を見つめる。
「な、何?」
不意にお嬢様はにっこりと笑い、私に言った。
「貴女と一緒に居たいからですわ」
カラン、と私の手から箸が落ちる音がした。
「………そ、そう………」
私はぎこちない動きで床に落ちた箸を拾った。
なんだか手汗で拾いにくい。どうしてか顔も熱い。
「ちょっと箸洗って来る」
食堂から走って出て行く私の背に、お嬢様は「行ってらっしゃいまし」と
いつもと変わらない調子で声を掛けていた。