生体サーバーからお嬢様になった話


「おめでとうございます。あなたはお嬢様に選ばれました」

見ず知らずのアカウントから届いたDMには、まさに怪文書としか

言いようのない文言が連なっていた。

長ったらしい文章を要約すると、身体を捨て生体サーバーとなっている私の脳は、

16歳という若さで亡くなった貴族令嬢の亡骸に移植して成り代わる権利を得た…という話らしい。

もしかして…にじみすお嬢様から本物お嬢様になれる…ってコト!?

 

「草」

 

私はDMにリアクションを送り、LTLの性癖暴露大会に戻ろうとした。

しかし、そこに表示されたのは「サーバーから切断されました」という文字。

おかしい。生体サーバーの私が切断されるなどあり得ない事だ。

メンテナンスの告知も無かった筈だ。これでは性癖暴露大会の流れに乗り遅れてしまう。

銀髪ロング褐色肌眼鏡のえっちなお姉さんが好きだと今すぐ投稿したいのに。

 

すぐさまリロードボタンを押そうとしたその時、目の前が突然暗闇に覆われた。

最上川が見えない。それどころか専用ポッドの中を満たすホルマリンも、

私の脳が映る特殊ガラスも見えない。

どうしよう、こんなことは初めてだ、

 

助けてお嬢様、助けてフォロワー、にゃんぷっぷー、ざうぷっぷー、ヨシゴイ、チャラ男、オタクくん、

誰でもいい、誰か

 

私をひとりにしないで

 

──────

 

「お嬢様、いかがなされましたか?」

「…あぁ、いえ、何でもありませんわ」

「御気分が優れないのですか?」

「大丈夫ですわセバスチャン。本当に何でもありませんのよ」

 

私の名前はxxx。名門xxxx家の一人娘、いわゆる貴族令嬢だ。

今日で私は17回目の誕生日を迎える。そんな私の為に、海外の仕事でなかなか会えない

両親がプレゼントを用意してくれたという。

 

「早く見せてくださいまし、セバスチャン」

「申し訳ありません、その…外に出るのを怖がっているらしく…あぁ!やっと出て来た!」

 

「……!」

 

まるでぬいぐるみのようなふわりとした黄色い毛並み。

とがったふたつの耳。つぶらな黒い瞳。ゆらゆらと揺れる尻尾。

小さな口からは「にゃあん」と鳴く声が聞こえた。

 

「…にゃんぷっぷー…」

 

「え?今何と?」

 

セバスチャンが首を傾げる。私の口から自然と出て来た謎の言葉に、私自身も困惑した。今のは、なに?

 

「い、いえ!とても可愛い子猫ですわね!」

「そうでしょう、お嬢様が寂しくないようにと、旦那様と奥様が選んで下さった

誕生日プレゼントですよ。抱いてみますか?」

 

セバスチャンの手から私に子猫が渡される。子猫は私を見つめたまま、大人しく私の腕の中に収まった。

 

「…不思議ですわね、あなたとは初めて会った気がしませんのよ」

「にゃあ〜」

 

私の心の中は、幸せな気持ちと、ほんの少しの切なさで満たされていた。