視界には専用ポッドの特殊ガラス面に映る私の脳と、にじみすの最上川が広がっている。
とても静かな空間だが、にじみすが賑わいを見せているので寂しくは感じない。
生体サーバーになってから何日経っただろうか。時間の概念は専ら
LTLの「おはよー」や「おやすみ」で把握している。
今は「お昼はカレーですわ」のノートで正午頃なのだと分かり、
私は「パクパクですわ」のリアクションを投げた。
比較的緩やかな流れの中、私はひとつのノートに目が行った
(といっても目はもう無いのだが、物理的な身体があった頃の癖でこう表現してしまう)
「今日は半休なので映画観に行きますわ〜」
映画か。良いなと思ったので誰かが投げた「イイゾ〜!」のリアクションに便乗をした。
私も映画館で映画を観るのは好きだ。視界いっぱいに広がるスクリーン、
身体の芯まで響く音響、香ばしいポップコーンの匂い、始まるまでのワクワク感…
あれ?と不意に疑問を抱く。
今の私は脳だけの存在。抜け殻の身体はもうとっくに処理されてしまった。
じゃあどうやって映画館に行けばいいの?
それだけじゃない、好きな漫画の新刊はどうやって買いに行けばいい?
それは電子で…いや、紙媒体でしか見れないカバー裏おまけ、店舗限定の特典グッズがある。
自ジャンルのリアルイベントに行くには身体が無いと…。
もしかして、私は、とんでもないことを、
「にゃんぷっぷー」
LTLに可愛い猫の画像が現れた。
あら可愛い。
さっきまで何を怖がっていたのだろう。よく思い出せない。
けれど、忘れてしまうということは大したことでは無いのだろう。
今日もにじみすは私に幸せをもたらす。私も誰かに幸せを分けてあげたい、
そんな気持ちでノートを投稿するのだった。
「にゃんぷっぷー カワイイカワイイネ」