土曜朝にやってるタイプのにじみす


20XX年、突如世界に出現した超大型生物。

巨体をひとたび動かすだけで自然を、街を破壊するその生物は「怪獣」と呼称された。

怪獣災害に対抗するべく、地球防衛隊「MOE(Monster Overcome Expert)」を設立。

対怪獣兵器を駆使し、脅威から地球と人類を守って来た。

 

時が経ち、もはや怪獣は珍しいものではなく、地震や台風といった災害と同じ様な扱いを受けていた頃───

 

 

「きさらぎ市B地区に出現した怪獣は、現在南東方面に進行しています」

「怪獣は茗荷怪鳥ヨシゴンと呼称」

「市街地の避難が済み次第、直ちに攻撃開始だ」

 

防衛隊基地内は警報と走り回る隊員で慌ただしくなる。

そんな中を、ブーツの踵をつかつかと鳴らし金色の縦ロール髪を靡かせながら

基地の地下ドックへと向かう隊員が居た。

 

「全く…これからお茶の時間だというのに、怪獣は待ってくれませんのね」

 

『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたゲートを潜り、階段を降りれば、

目の前には巨大な恐竜のような姿をしたロボットの姿が現れる。

 

全長50m、総重量2万5000tの対怪獣兵器「ZAURUSU」。

防衛隊MOEと特殊技術機構IOの共同開発による最新鋭技術の結晶である。

 

金髪の隊員はロボットの搭乗口へと進みながら、近くに居たメガネの技術者に声を掛ける。

 

「オタ隊員!前回の戦闘ダメージの修復は?」

「オールオッケーですぞ!ついでに照準システムの誤差率も0.001%未満に修正しておきましたぞ〜!」

「いつも迅速な対応助かりますわ」

「いやいや、拙者たち技術屋はこれくらいしかお役に立てないもので…」

デュフフ、と照れ笑いの様なものを漏らしてから、オタ隊員はメガネをクイッとする仕草をして表情を引き締める。

 

「ニジミス隊員、頑張って下さい」

 

ZAURUSUの操縦者、ニジミス・モエ隊員は金髪をヘルメットの中に収めながらオタ隊員に微笑む。

 

「任せなさい。今回も私が怪獣を倒してみせますわ」

 

ニジミスの乗り込んだZAURUSUは、ジェットエンジンを轟かせ地下ドックから出撃して行った。

最高速度マッハ2を誇る機体は、怪獣の居る市街地まですぐに辿り着くだろう。

それを見送った技術者達は次の作業に向かいながら雑談を挟む。

 

「ニジミス隊員って凄いですよね、まだ若くて綺麗な女性なのに前線で戦うエースパイロットなんて…かっこいいなぁ」

「時代遅れの発言キタコレ。女性隊員なんぞもう珍しく無いですぞ〜」

「オタさんに時代遅れとか言われたくな…」

「なんか言った?」

「いえ、何でも…どうしてニジミス隊員ってパイロットに志願したんでしょうね」

「…あー、ご存知ないので?」

「えっ?何がです?」

「あのお嬢様は…家族が怪獣災害の犠牲になってるんだよ…」

「…あぁ……」

 

 

─────────

 

 

「目標発見、これよりZAURUSUによる迎撃を行いますわ!」

ニジミスは操縦桿を慣れた手つきで動かし、地上に機体を降り立たせる。

少し距離をとった前方には、鳥の姿をした怪獣「ヨシゴン」が居る。

ぐるぐると忙しなく首を動かして、羽根があるのに羽ばたいて飛ぶでもなく、ガニ股の足を地に足つけている。

 

「鳥の癖に飛ばないのかしら?ならば先手必勝ですわ!」

 

操縦桿のスイッチを押して、両腕に装備された205㎜機関榴弾砲をヨシゴンに浴びせる。

 

「全弾命中確認!」

 

ヨシゴンは抵抗するでもなく、あっけなく弾丸のサンドバッグとなり倒れる。

周囲は灰色の煙に包まれた。

 

「…やったのかしら?」

 

それにしては早過ぎる。何かがおかしい、と違和感を覚える。

その時、本部のオペレーターから通信が飛ぶ。

 

『ヨシゴンの熱エネルギー反応増大!!あれは…形状を変化させている…!?

ニジミス隊員、気を付けて!!』

 

メインカメラが捉えていたのは、煙の中で巨大な影が蠢く様子だった。

「な、何が起こっているの!?」

肉と骨が軋み合うグロテスクな音はやがて止まり、煙の向こう側から現れたのは───

 

「か、怪獣が…鳥型から人型になっている…!?」

 

丸を二つ付けたような姿は跡形もなく、まるで筋肉質な人間の身体へと変貌していた。

頭だけはそのままの形で、しかし目つきは先程よりも鋭く光っているようにも見えた。

 

「変態するってこと…!?そんな怪獣見た事なっ…」

言い終わらないうちに、姿を変えたヨシゴンがZAURUSUに向かって走って来た。

「キャアッ!!!」

ヨシゴンはZAURUSUの機体を殴り飛ばし、ビルに激突させた。

「さっきより動きが速い…!早く、立ち上がらないとっ…!」

コックピット内に火花を散らせながらも、ZAURUSUはなんとかビルの瓦礫から身を起こそうとする。

が、それより速くヨシゴンが飛び掛かり、ZAURUSUの装甲を鋭い嘴が貫く。

『ZAURUSUのダメージ80%!エンジン出力低下!危険です!ニジミス隊員、脱出して下さい!』

「くっ…うぅっ…」

攻撃による衝撃で、ニジミスは身体を強く打ち付け意識が朦朧としていた。

「っ…私はまだ、やれ…」

機体の電力が低下していく中、ノイズ混じりにメインカメラに映るものがニジミスの目に留まる。

 

「っ…!!!そんな!!!」

 

『ニジミス隊員?ニジミス隊員!』

 

本部との通信がぷつりと途絶えた。

 

─────────

 

「うわああぁん…お母さん…お父さん…どこぉ…」

 

瓦礫と煙に包まれたそこは、怪獣と防衛隊が戦っていたすぐ側だった。

子供は泣きながら、家族を探してふらふらと彷徨う。

 

「そこのキミ!!大丈夫ですの!?」

 

子供が声のする方へ振り返ると、防衛隊のスーツを着た金髪の女性が駆け寄って来るのが見えた。

 

「あっ…防衛隊の人!?」

「そうですわ。ここは危険ですわ、早く安全な場所へ避難しましょう。私が連れて行きますわ」

「待って!ボクのお母さんとお父さんが居ないんだ!

お母さんが買い物に行ったスーパーも、お父さんが働いてる会社も、潰れちゃってて…!!」

「っ…!」

涙を流しながら訴える子供の姿が、一瞬自分の幼い頃の姿に重なる。

 

『お母様!お父様!』

 

(───しっかりなさい!私!)

ニジミスは子供に優しく笑顔で語りかける。

「安心して。きっとキミのご両親は、先に避難所に行っててキミを待っているのですわ」

「本当に…?」

「えぇ、貴族たる者、約束は破りませんわ!」

「きぞ、く…?」

「とにかく、ここは危険ですわ。早く逃げ───」

 

二人の近くで轟音が鳴る。

無人になった兵器と戦っていた怪獣が、興味が失せたのか向きを変え歩き出した。

 

「こっちに来るよ!」

「走って逃げ…うっ!!」

走ろうとしたニジミスの身体がガクンと崩れ落ちる。先程の戦闘によるダメージは思っていたより酷かったらしい。

「隊員さん!」

「逃げなさい!!!早く!!!」

「で、でも…!」

「いいから!!!行きなさい!!!」

ニジミスの怒声に気圧され、子供はまた涙を流しながら走って行った。

 

 

ニジミスは地面に倒れ込んだまま、こちらに向かって来る怪獣を見上げる。

私はここで死ぬだろう。防衛隊に入った時から覚悟して来た事だ、未練は無い。

でも、あぁ神様、あの子供だけは、あの子の命だけは助けてください。

どうか、どうか───

 

 

その時、空から何かが光って見えた。

 

「───え、」

 

光はニジミスに向かって真っ直ぐ突き進んで来る。

 

「なっ、まぶしっ───」

 

 

─────────

 

 

ニジミスの視界はまばゆい光に包まれている。

そこに瓦礫の街の面影はなく、倒れていた筈なのに何故か普通に立って居る。

しかし足が地面に着いている感覚はなく、光の中に浮かんでいるような、不思議な状態だった。

 

「もしかして…ここが天国かしら…」

 

『ここはインナースペースだ、ニジミス・モエ』

 

光の空間の中に声が響く。耳から聴こえるというより、頭の中に直接響くような声が。

 

「なっ…誰ですの?!」

 

光の空間の中から、ぼんやりとした輪郭のみが浮かび上がる。人の形をしているが、人間の様には見えない。

 

『私はこの地球より遙か遠い銀河の星から来た異星人だ』

「い、異星人…」

『ニジミス・モエ…君の他者の命を自身の命より優先する行為に、私は深く感銘を受けた』

「は、はぁ…」

『このままでは君は命を落としてしまう。だが、君の命が助かり、怪獣も倒せる方法がひとつだけある』

異星人の話を聞くにつれ、ニジミスはだんだんと怪訝な表情になる。

 

『私と融合し、ひとつになるのだ』

 

「………怪しいですわ」

 

『…?』

 

「融合って何ですの!?私と異星人の貴方がひとつにって??

ハッ…まさか私の身体が貴方に乗っ取られるって事ですの!?」

『そういう事ではない』

「そんな悪魔の囁きには乗りませんわ!私はこのまま死んで両親の元へ行きますのっ…!」

 

『ではあの祈りは嘘だったのか?』

 

「…っ!」

 

『君はあの子供を助けたいと祈っただろう。あれは心の底からの願いだった筈だ』

 

顔の無い異星人が、ニジミスの目をじっと見つめているような気がした。

 

『助けたくはないのか』

 

「………」

 

ニジミスは深く空気を吸い込み、長い息を吐いた。

 

「…少々取り乱してしまいました、失礼しましたわ…

えぇ、そうですとも。私はあの子を助けたいですわ!

こうなったら異星人と融合でもなんでもして、あの怪獣を倒してやりますわ〜〜〜!!!」

覚悟を決めたニジミスの「オーホッホッホ!!!」という高笑いが空間内に響き渡った。

 

『ならば、この力を受け取れ!』

異星人の身体から、小さな光が飛び出す。

それはニジミスの左腕と手のひらに止まり、その形をはっきりと現す。

「これは…?」

『左腕のREアクションライザーに、3つのデッキをセットするんだ』

言われた通りに、左腕に付いた装置にカプセルのような入れ物を3本セットする。

「セットしましたわ。それから?」

『ボタンを押すと変身する』

「変身…って!?もしかして私、魔法少女に!?」

『…おそらく君の想像しているものとは違う。私の身体を使うのだからな』

「あら、そうですの…ところで、一つ聞いて宜しくて?」

『何だ』

「貴方のお名前を伺っていませんでしたわ。貴方は私の名前を知っている様でしたが…」

『…私たちの種族には、君たち地球人でいう名前というものは無い』

「あら…でも名前が無いと不便ですわ。そうねぇ…ウルトラマンというのはどうかしら?」

『…ウルトラ…?』

「私のセバスチャン…執事の異名ですわ。

セバスチャンは屋敷の誰よりも仕事が出来たので『偉業を成し遂げるとても凄い人』という意味で呼ばれていましたの」

『そうか。ではこれからは私と君が融合して、ウルトラマンニジミスだな』

「ウルトラマンニジミス…!さぁ、変身してあの怪獣を共に倒しますわよ!」

『あぁ!』

 

ニジミスは、左腕のREアクションライザーのボタンを強く押した。

 

 

─────────

 

 

ZAURUSUの出撃から2時間後、時刻にして14:05頃、防衛隊本部にて。

「上空から強力なエネルギー反応!」

「ヨシゴンの進行ルートに来ます!!」

「メインモニターに映像、出ます!!」

画面に映っていたのは、眩い光と共に現れた、人型の何か。

「なんだ、これは…」

 

これが、後に「ウルトラマン」と呼称される銀色の巨人と人類の、初めての遭遇だった。

 

 

 

 

─────(次回予告)──────

 

ウルトラマンニジミスに変身し怪獣を倒したニジミス隊員。

だがニジミス隊員とウルトラマンの仲はどこかぎこちなく…。

次回、ウルトラマンニジミス第2話

「お嬢様とウルトラマン」

君はあの丸い餡子の入った焼き菓子を何と呼ぶのか。

 

 

─────(次回予告)──────