布団がふっとんだ
駄洒落ノートを書き込むと、すぐに通知が鳴る。「連れて行きなさい」のリアクションが来た。
「今日も反応早いなにじみす民は…」
misskeyのサーバーのひとつの「にじみす」では、駄洒落を投稿すると
「連れて行きなさい」というリアクションが送られて来る。
どこに連れて行かれるかは各ユーザーの想像に委ねられるが、つまらない駄洒落を言うユーザーは
罰として脳だけの生体サーバーにされてしまう…というのが俺の中では有力説となっている。
「でもやめらんねぇんだよな、これが」
今日もベタな駄洒落を特に深く考えずに投稿した。
布団を干したという誰かのノートを見た流れで思い出した古典的な駄洒落だ。
と、その時。
ピンポーン、と玄関からインターホンが鳴る。
「ん…?誰だ、こんな平日の真昼間に…」
セールスか何かだろうが、何か注文して忘れてたやつが届いたかもしれないので、一応ドアスコープを覗いてみる。
そこには、知っている人が立っていた。
うちの隣に住んでる女の人…佐藤さんだ。
俺と佐藤さんの間に、これといった交流は無い。通りすがれば挨拶する程度、それだけで特に
目立った会話をする事も無かった。うちを訪ねて来るなんてこれが初めてだ。一体何の用だろう?
「今開けまーす」
ドアチェーンを外し、鍵を回して扉を開ける。
「あの…何でしょ…」
ガッ!と乱暴な音がして、半開きだったドアが全開になる。
ドアを開けたのは目の前の佐藤さんだった。
「連れて行きなさい」
俺が状況を飲み込めず口を半開きにして数秒も経たないうちに、佐藤さんが何かを言う。
すると、視界の外から瞬く間に大勢の人間が現れて俺を取り囲む。
ヘルメットにガスマスク、迷彩服にプロテクター、まるで軍人の様な格好をした人達が
俺の身体と頭を壁に押し付けて、腕を後ろに回し自由を奪った。
「へ!?えっ!?えぇ!?」
一瞬の出来事に、俺は思考が付いて来ない。
何だこの人達?警察?俺何かした?何もしてないが?なんで?なにが起こってる?
「14時05分、対象を確保」
佐藤さんの声がする。と同時に、手首に金属の何かが当たる感触と、ガチャリという重い音がした。
すると俺の手は動くことがままならなくなった。
もしかしてこれって、手錠か!?ヤバくないか!?いや、何もかもがヤバいだろ!!
「ま、待ってください!!何なんですか!!」
俺が喚こうが騒ごうが構うこと無く、謎の集団によって俺は家の外へと連れ出される。
それを黙って見ている佐藤さんが視界に入った。
「さ、佐藤さん!!助けて下さいよぉ!!」
思わず叫んで助けを求めるが、佐藤さんは表情ひとつ変えず、こう言った。
「我々は貴方を"機関"に連れて行く為に来ました」
「き、きかん?な、何ですかそれ…」
「今まで散々警告はして来た筈です。知らないとは言わせません。しかし貴方は一線を越えてしまった…」
「警告??そんなの知らな…」
佐藤さんが俺の目の前に、スマホの画面を突き出す。
そこに映し出されていたのは…
「貴方が今まで投稿して来た"これ"の回数は9万回…引用やリプライを含めれば、丁度10万回になります」
俺のにじみすアカウントのホームには、駄洒落が連なる。
それらには全て「連れて行きなさい」のリアクションが付いている。
「まさか…あ、アンタがずっと……」
佐藤さんはスマホをポケットにしまい、背を向けて歩き出す。
その行先には黒いワンボックスカーが止まっている。拘束された俺もそこに連行される。
"にじみすでつまらない駄洒落を言うと連れて行かれる"というのは、つまり、こういう──────
「や、やめてくれ!!そんな、ただのダジャレじゃないか!!どうしてこんな事するんだ、離してくれ!!頼む、許してくれ!!!助けてくれーーーッッッ!!!!!!」
ゴツっ、と後頭部に重い衝撃が走る。
俺の意識は暗闇の中へと堕ちていった。