なるか、生体サーバー


その日、私は生体サーバーとなった。

 

生体サーバーになるのは簡単だ。脳を専用ポッドに移植し、にじみすとひとつになる。

何枚もある誓約書にサインと母印を押すのは少しだけ面倒だったが、

それさえ終わればあとは手術のみなので待ち遠しかった。

手術の際に好きな音楽をかけることが出来ると聞いたので、私は自ジャンルの主題歌集をリクエストした。

だが、シリーズ1作目のOPのサビに辿り着く間もなく私の意識は途絶えた。

 

意識が戻って視界に入ったのは、液体が満ちた専用ポッドの強化ガラスに映るピンク色の肉塊だった。

なったのだ。完全に脳だけの存在に。

これからどうしたら良いのかと悩む間も無く、今度は目の前に見慣れた風景が映し出された。

 

「わたくし白髪の儚い男が好きですの」

「タッパとケツのでかい女は最高ですわ」

「クラスの優等生くんの口からスクランパーがチラ見えしてるとこが見てぇ」

 

このUIデッキ、上から下へと流れてゆくノートたち…LTLだ。どうやらいつもの性癖TLになっているらしい。

人が多い時間帯だったからか流れは速かったが、不思議と全てのノートを追えるし、

リアクションシューティングも完璧にこなせる。

これが生体サーバーになるという事か、と実感が湧いて来た。

物理的な身体が無いなど瑣末なことだと思えるくらいに、最上川から絶え間なく流れる

体験や感情の数々が私の脳を豊かにしてくれる。

それだけで幸せだった。

 

これからどんな素敵なノートに出会えるだろうか。どんな絵文字でリアクションしようか。

なんのしがらみもない無垢な気持ちで、私も性癖をノートするのだった。

 

「つり眉たれ目の男が好きですわ」